2009年11月03日 00:01
そこは、魔境への入り口。
行ってまいりました。
Yさん宅です。
Yさんでピンと来られない方は、こちらをどうぞ。
(Yさん伝説:1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,30,31,32,33,34,35,36,37,38,39,40)
照喜名先生の上陸作戦も無事(?)終了しました。
翌週からは、また、私の孤独な戦いが始まっているのです。
いやあ、精神的にこたえますねえ。
一度、楽をさせてもらっただけに。
で、話は、先週にさかのぼります。
「さあ、召し上がってくださいね。」
いつもどおり、ここから始めさせてください。
激戦を終えたその食卓。
「い、いつの間に・・・。」
照喜名先生を処刑・・・いえ、歓待するために解体されたアンコールワット。
何事もなかったかのように復元されているではありませんか。
ビンやタッパーが何層にもうず高く積まれ、食卓を半分以上占拠しています。
逆に、不本意に解体された反動なのでしょうか。
さらに、その領域を広げているではありませんか。
「戻ってますね・・・いつもどおりに。」
「そうでしょ。やっぱりこうでなくちゃ落ち着かなくて。」
これは、危険な傾向です。
臨戦態勢がすっかり整っています。
Yさんが落ち着くのに反比例し、私の緊張度はどんどん増していくのです。
「今日は時間がなくてね、手抜きなんですよ。」
「いえいえ、そんな。お気遣いなく。」
視界の端にチキンライスが飛び込んできました。
「あっ、チキンライスですね。好物なんですよ、いただき・・・」
「ちょっと待った!」
久しぶりに出ました。
Yさんの「ちょっと待った」攻撃。
「それは、後で。」
えっ?
後?
ご飯ものなのに・・・。
「まずは、これを食べてもらわないと。」
いつもどおりのレギュラー陣が登場します。
お惣菜やお漬物のビンの林。
先週、照喜名先生が来られた際。
いつもの定番メニューには、必ず箸をつけてもらわなければいけません。
だから、量が少なくなっていた一品を新たに作り直されたみたいなんです。
そう、別のビンで。
つまり、以前からのビンが残っているわけです。
どれも、中途半端な量で。
すると、同じ料理なのに、新旧2つのビンが存在することになります。
で、収納するスペースも2倍必要になります。
これは、見過ごすことのできない事態なのです。
「空間の魔術師」と言われるYさんにとって。
一刻も早く古いほうのビンを消費してしまわなければなりません。
で、「消費者」は、もちろん、私ですね。
「はい、これは、白いご飯で食べてもらわないと。」
そう、味のついたチキンライスで頂くのは、邪道なんです。
Yさんが丹精こめた料理の味が、ダイレクトに伝わらないからです。
う~む、これは、考えなければなりませんよ。
ひと箸で口に運ぶご飯の量。
これを極力、抑制しなければなりません。
何とかおかわりをせずに、一杯で対応したいところです。
何と言っても、後にはチキンライスが控えているのだから。
「はい、お茶碗。」
「・・・ありがとうございます。」
予想通り、「どんぶり」という名のお茶碗を手渡されます。
「ご飯はセルフでお願いしますね。」
「はい、もちろん。」
ここもポイントになりそうですね。
どんぶり茶碗にまともによそるのは、自殺行為。
しかし、あまりにも量が少ないと、目立ってしまうのです。
ここは、できるだけ、ご飯を軽く、ふわっと。
教育的指導を受けないギリギリのラインで勝負しないといけません。
どんぶりに6分目。
これで、出方をうかがってみましょう。
「では、頂きます。」
「あら、ご飯、そんなもんでいいんですか?」
早速、Yさんの厳しい視線がどんぶりに注ぎ込まれます。
ここは、この重圧に耐えなければいけません。
「いえ、足らなかったら、また、おかわりさせてもらいますから。」
「そうぉ?でも、おかず、多いわよ。」
「・・・。」
さて、ここでも熟慮が求められます。
通常、お箸でおかずをつかみます。
で、それをご飯の上に乗せて、一緒に頂きますね。
これを数式化するとこうです。
「おかず:ご飯=1:1」
これでは、おかずを食べきるまでに大量のご飯を胃袋に収めなければなりません。
目の前には、ビンが6~7本、並べられています。
そんな直球勝負では、チキンライスにたどり着く前に撃沈してしまうことでしょう。
かと言って、あまり単調な「おかず攻撃」でも目立ってしまいます。
おかず→おかず→おかず→おかず・・・
これでは、Yさんの熾烈な攻撃から逃れることはできません。
「これが、ご飯によく合うのよ。」
というのがYさんの口ぐせですから。
ここは、できるだけ、ご飯を口に入れずに、リズムに変化をつけたいところ。
おかず→おかず→称賛→おかず→質問→おかず→ご飯→称賛→おかず・・・
「称賛」を適度に挟むことにより、ご機嫌を維持。
さらに、「質問」に答えてもらうことにより、その間、私の動作に対する注意を逸らすのだ。
もちろん、常にあごは大きく、ゆっくりと動かしていたいところ。
いつか私も食卓へ。
そう思うあなたは、是非、メモっておいてください。
あなたの生還率を大きく高めることでしょう。
「まっ、こんなもんかな。」
Yさんから恩赦が発布されます。
まだ、2~3本は、中身が1/3ほど残っています。
しかし、ご飯一杯で対応できるのは、ここらが限度。
チキンライスは、どう見ても2人前はあるのです。
「後は、次回の楽しみにとっておいてもらえませんか?」
「そうね。ちゃんと取っておきますからね。」
こういうことは、絶対、忘れないんです、Yさんは。
たとえ、照喜名先生の名前は、すぐに忘れようとも。
しかし、とりあえず、この場はしのぎました。
まるで、鳩山内閣の外交政策のような問題先送り。
「では、チキンライスを・・・。」
「ちょっと待った!」
「えっ?」
「これは、チキンライスじゃないの。」
これは、どういうことだ。
どう見ても、ケチャップで色づけられた赤い肌。
あなたは、一体、誰なんだ?
「今から、卵で包みますから。」
「・・・オムライスだったんですね。」
なるほど、そういうことでしたか。
そりゃ、オムライスのほうがさらに美味しく頂けそうです。
こういうひと手間を惜しまれないのが、Yさんらしいところです。
ありがたいかぎりです。
「あっ、そう、先生。」
「はい?」
「チキンライスね、もう冷めてしまってるの。」
「はあ」
「チンカラホイします?」
さっ、ここで、Yさんファンのあなた。
是非、「Yさん辞書」に加えておいてください。
通常、電子レンジで温めることを何と言われます?
「レンジでチン!」
では、ないでしょうか?
しかし、それは、人間界での話。
魔界では、それさえも呪文なのです。
「チンカラホイ!」
Yさん宅の電子レンジ。
この呪文を唱えないと、動作しません。
この呪文。
私にとっては、以前から聞き慣れたもののひとつ。
どうやら、ドラえもんでも使われていたようです。
「そうですね。では、チンカラホイしてもらってもいいですか?」
「はい、はい。じゃあ、これを・・・。」
そう言って、チキンライスのお皿を電子レンジへ運んで行かれるYさん。
と、その時。
Yさんの口から流れて来たのです。
まさしく悪魔の手毬唄が。
「♪チンカラ~峠はぁ~ 〇△※×□・・・(後略)」
「チッ、チンカラ峠・・・。」
そんな峠が実在するのだろうか。
もしや冥界には、そんな峠があるのかもしれない。
聴く者の思考能力を一瞬にして奪ってしまうその歌声。
まるで、黄泉の国へ誘われているかのように。
耳にこびりついて離れない私。
帰宅後、早速、ググって(googleで検索すること)みました。
・・・あった。
どうやら、有名な童謡らしい。
しかも、JASRAC(社団法人日本音楽著作権協会)にも登録されているではないか。
ちなみに、このサイトで歌詞とメロディが視聴できます。
し、知らなかった・・・。
こんなところで、人間界とつながっていたとは・・・。
2年間、お邪魔して、初めて耳にしたこのメロディー。
これは、治療後にも関わらず、血圧が150を超えているのではなかろうか。
そんな私の心配をよそに、フライパンで卵を焼きにかかられるYさん。
「私、ひっくり返すの苦手なのよねえ・・・ホイッ!」
高い圧力で凝縮された鼻息とともに、卵がひっくり返されます。
しかし、着地失敗。
端っこがねじれたままです。
「あらあ、やっぱりね。」
「でも、味には変わりありませんよ。」
「そうね。じゃあ、残さず食べてくださいね。」
しっかり念押しまでされ、オムライスにスプーンを運びます。
もちろん、セコム顔負けのYさんセンサーが常時作動しています。
「ほら、先生、ちゃんと卵と一緒に口に入れないと。」
うかつにも、チキンライスだけ、口に入れてしまった私。
それを見逃すYさんではありません。
「あっ、はい、すいません。」
当然、私は言われるがまま。
まるで、小沢幹事長から訓示を受ける1年生議員のように。
「ふぅーっ、あと少しだ。」
オムライスも、あと2~3口。
今宵も自分を褒めてあげようと、ひと息、つきかけたその時。
「さあ、そろそろ用意をしましょうかね。」
えっ!?
用意!?
今から!?
あのー、ご飯もの、しっかり頂いたんですけど・・・。
そんな私の心の叫びなど届くはずもありません。
まるで、越後屋と結託している悪代官に直訴するようなもの。
Yさんは、当然のように、鍋を火にかけられるのです。
一体、この展開から何が出てくるというのだろうか?
その一品こそが、長きにわたる大河ドラマの始まりになろうとは・・・。
その時の私には、知る由もなかったのです。
果たして、その一品とは・・・。
-つづく-

