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この季節にホラー?
そう、身の毛もよだつ怪談です。
お待たせしました。
Yさん伝説です。
Yさんでピンと来られない方は、こちらをどうぞ。
(Yさん伝説:1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,30,31,32,33,34,35,36,37,38,39,40,41,42,43,44)
おや、ちょっと出だしが違うじゃないか。
って、思われましたね。
そう、今宵は、「Yさん宅」ではないのです。
冬到来を目前に。
今宵は、ひと味違ったアナザー・ストーリーをどうぞ。
その日は、大阪も雨が降っていました。
ひと雨ごとに気温が下がり、冬の到来を肌で感じます。
「ほな、始めよか。」
降り続いた雨も、夕方には上がりました。
ひんやりとした冷気が大阪の夜を包み込みます。
私は、友人数人とモスバーガーに集合。
結婚式の二次会の打合せです。
「やっぱりミナミでええんとちゃうかな。」
「でも、遠方から来る人も多いみたいやから、梅田のほうが。」
「いや、式場の近くにしないと段取りが・・・。」
会場選定で、議論が熱を帯びてきた頃。
ブルブルッ。
私の携帯が振動します。
ちなみに、私は24時間マナーモード。
着信表示を見ると・・・。
「あっ、Yさんや。」
「えっ、誰から?」
「ああ、いや、お客さん・・・ちょっとごめん、続けてて。」
私は、店の外に出て、電話を取ります。
「はい、谷田です。」
「あっ、先生?Yです。今、大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですよ。」
いつもどおりのYさんの元気な声。
何だろ?
予約時間の変更かな?
「どうされましたか?」
「いや、それがね、先生。あのキャベツ、ほんと美味しかったのよ。」
「はぁ?・・・キャベツですか。」
実は、Yさん宅にうかがう際。
わが家で採れた野菜をよくお持ちするんです。
Yさん宅で、よくお土産をもらうんですね。
だから、父も母もYさんのことは、しっかりインプットしています。
で、父も覚えているんです。
木曜日は、Yさんデー。
だから、朝から畑に行って、その時々に実った野菜を私に持たせるんです。
特に、先週は、実り多き日。
今年最初のキャベツの他に、サラダ大根やブロッコリー、サツマイモなど。
「あらー、嬉しいわ。新鮮なお野菜ね。」
野菜をお渡しすると、Yさんのご機嫌もアップ。
「これ、どうやって、調理しようかしら・・・フフフ」
ついでに、血圧も10ぐらいアップ。
若干、身の危険を感じる私。
普段は、お食事の時に、解説してくれるんです。
前週、お届けした野菜をどのように調理されたか。
で、話は、電話を取ったシーンへ戻ります。
「そう、あのキャベツ。芯もね、ゆでると柔らかくてね。」
「はあ」
「マヨネーズと和(あ)えると、ほんとおいしいのよ。」
「そうですか。」
「で、ご近所でうちの合鍵も渡しているUさんの奥さんにもあげたのね。」
「はあ、Uさんの奥さんに。」
「そしたら、ほんとおいしいわって、感動しちゃってね。」
「はあ」
「だから、しこたま作ったのよ。」
「ほお」
「で、作り過ぎて、Uさんとこでも食べ切れないからね。」
「はあ」
「I神社の神主さんにもあげたのよ。」
「はあ」
「ほんだら、みんなでおいしい、おいしいってね。」
「はあ」
「で、お礼にお菓子をもらってね。」
「はあ」
こ、これは・・・一体、どういうことだ?
いつになったら、本題に入るのだろ?
さっきから、キャベツの話題一色ではないか。
しかも、まだまだ、終わる気配がないし。
「で、キャベツの葉っぱもね。」
うっ、これは、いけない。
キャベツの芯の話が終わったと思ったら、今度は、葉っぱじゃないか。
息つく暇もない連続攻撃。
しかも、このままでは、自陣、中央突破を図られかねない。
何とかタイミングを見計らって、切り返したいところ。
「で、ロールキャベツにしてね。」
「はあ」
「Oさんとこに持っていってあげたのよ。」
「はあ」
「そしたら、ご主人さんが、ロールキャベツ、大好物でね。」
「はあ」
「仕方ないから、もう一回、追加で作ってあげたのよ。」
「はあ」
「そしたら、ご主人がえらい喜んでね。」
「はあ」
「お返しに、おまんじゅうをもらっちゃったんです。」
「はあ」
ダ、ダメだ・・・。
切り込めない。
鉄壁の守りだ。
全く付け入る隙が見出せない。
はっ、これは、もしや、先週、治療した鼻のせいでは・・・。
Yさんは、よく鼻が詰まります。
また、痰もよくからみます。
原因は、食べ過ぎです。
余分なたんぱく質を鼻水や痰で排出しようとしているんですね。
だから、普段は、話の途中で、鼻をズルッとすすられたり、痰を切られたりするんです。
そこが、狙い目。
まさに、付け入る隙なわけです。
し、しかし・・・先週。
私は、その鼻の通りをよくするために、時間を割いてしまったのです。
おかげで、常に気が昇って、紅潮しがちなYさんの顔も、スッキリされてました。
だから、呼吸も楽になって、口調も滑らか。
いつもなら、鼻の治療をしても、すぐに食べ過ぎて、また、詰まるんです。
しかし、今回は、まだ、効果が持続しているではないか。
う~む、これは、喜ばしいことではあるのだが・・・。
「で、あのサラダ大根ですけどね。」
いつの間にか、サラダ大根に移行されてしまったではないか。
も、もしや、本題などなくて・・・つまり、野菜の行く末が本題だと?
な、何と言うことだ。
先週は、他にもいろいろお持ちしたはずだ。
もしや、その全てについて懇切丁寧に解説されるとでも言うのか・・・。
「で、そこで、ちょっと甘酢を入れるのがポイントでね。」
料理のできない私に、調味料の加減など、おっしゃられても・・・。
しかし、Yさんのハートは、すでに燃え盛って止めようがありません。
まるで、暴走した高速増殖炉もんじゅのように。
まだだ。
まだ、終わらない。
「サラダ大根劇場」もこれから中盤というところではないか。
確か、まだ、ブロッコリーやサツマイモがあったはずだ。
むむむ、これは、厳しい・・・。
もうかれこれ、10分以上、経過しているはずだ。
その間、私は、ほとんどあいづちしか打っていない。
何という怒涛の攻撃なのだろう。
し、しかも・・・
薄々気付いていながら、認めたくない現実が私を襲います。
さ・む・い・っ・。
寒いではないか。
すぐに終わるだろうと、上着は、店の中。
長袖シャツ1枚では、この夜の寒気に立ち向かうことはできない。
この現実にどう対処すべきだろうか?
一度、上着を取りに店に戻る?
いや、それでは、腰を据えて聴く態勢を自ら構築してしまうことにはならないだろうか。
その諦めや油断が、切り返せるわずかな隙を見逃してしまいかねない。
ここは、一刻も早く暖かい店内に帰還するんだ。
そんな強い信念を持たねばなるまい。
「はあ」
「ほお」
「そうですか」
今やステージは、ブロッコリーへと移っていた。
どうやら、ホワイトシチューに入れられたようだ。
特に、芯が美味しかったとのこと。
なるほど、父も喜んでくれるでしょう。
徐々に私の思考能力が奪われていきます。
これが、黒魔術の効力なのでしょうか。
もう、切り返そうとも思わなくなって来ました。
気のせいか、鼻水が出てきたようだ。
しかも、鳥肌が立って、震えが・・・。
い、いけない・・・こんなことで体調を崩すなんて。
どうやら、「ブロッコリー繁盛記」も終盤に差し掛かった模様。
何とか、「サツマイモ ~遥かなる大地から~」が始まる前に、カットインしなければ。
「で、シチューを一晩、寝かせておいてね。」
ま、まだだ。
焦ってはいけない。
きっと切れ目があるはずだ。
その一瞬に全神経を集中し・・・。
しかし、次の瞬間。
驚くべき、ひと言が・・・。
「・・・じゃあ、先生。そういうことですから。」
えーーーっ!?
「そういうこと」って。
結局、どういうことなんですか?
もうお終いですか?
サツマイモは・・・。
サツマイモは、どうなったんですか?
このまま、サツマイモだけ、触れずに終わるのですか?
本来なら、暖かい店内に早く戻られるわけだから、喜ばしいことのはず。
し、しかし、何なんだ、この不完全燃焼は・・・。
あれだけ、他の野菜には熱弁を奮っておかれながら、なぜ、サツマイモだけ。
気になって、仕方がないじゃないか。
う~む、何という・・・。
何という恐ろしき心理作戦。
すっかり黒魔術の手玉に取られてしまった私。
「また、木曜日にお待ちしていますから。」
ああ、いつの間にか、締めにかかっている。
「風邪などひかれないように。」
・・・慈悲深い。
あまりにも慈悲深い。
「あっ、Yさん・・・(ツーツー)」
切れてる・・・。
何だったんだ。
一体、何だったというのだ、この20分間は。
結局、野菜の行く末だけで終わってしまったではないか。
しかも、サツマイモだけは語らず終いで。
この電話の真意とは・・・。
いや、分かっている。
すでに、分かっていたんだ。
そんなことは。
ただ、私は、そういうことができる人種ではないから。
認めたくなかっただけなのだ。
うらやましかっただけなのだ。
みなさんも、すでに、お気づきであろう。
そう、この電話の真意とは・・・。
「Yさんがしゃべりたかったから、しゃべっただけ。」
なのだ。
私が、料理はできないのは、百も承知。
なのに、細かにレシピを話すYさん。
つまり、私に教えるのが目的ではない。
ただ、しゃべりたかっただけ。
そう、別に次の木曜日に食卓でうかがってもいいようなお話。
でも、Yさんは、「今」、しゃべりたかったのだ。
その瞬間、瞬間を大事にする。
まさに、生命としての『私』が輝いているではないか。
間違っても、こんな電話はできない私。
果たして、そうだろうか?
なぜ、できないのか?
相手に嫌がられるから?
非常識だから?
そんな制限は、全て自分で作ったもの。
自由でいいのだ。
自分の「舞台」なのだから。
限られた時間で与えられたオンステージなのだから。
「えらい遅かったやないか。」
「ああ、ごめん。」
「何、しゃべってたん?」
「いや、ちょっと。」
まさかキャベツの芯が・・・とは言えない。
「寒くなかった?」
「うん、ちょっと・・・っていうか、かなり。」
「なんか頼んだら。」
「そうやな、じゃあ、ミネストローネ。」
「混沌の世界」から、やっとこの世に戻ってきて、ひと安心。
ホッと一息、身も温まります。
お気に入りのミネストローネをすすりながら。
-完-
<読者応援メッセージ>
弱冠14歳でありながら、熱烈なYさんファンの奈都子さん。
さぞかし、お母様も複雑な心境でしょう(笑)
で、ただいま、試験勉強中のようですね。
勉強、大変かな?
中学校の勉強に疲れたら、大阪には黒魔術の学校もあるからね。
ただし、編入試験はかなり難しいから、やっぱり勉強しないとね。
実は、Yさんもかなりの勉強家で教養が高い人なんだよ。
もちろん、「強要」も高いけどね(笑)
奈都子さんが、いつか教団の幹部になれるよう、私も、応援しています。
もちろん、Yさんも応援しています(多分)。
では、夜に外で携帯電話で長話なんかして、風邪などひかないようにね。
Enjoy studying!
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