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闇の冥王は、今年も大ブレイクの予感。
行ってまいりました。
Yさん宅です。
「Yさん」でピンと来られない方は、こちらをどうぞ。
(Yさん伝説:1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,30,31,32,33,34,35,36,37,38,39,40,41,42,43,44,45,46,47,48,49,50)
2010年、初春。
1月7日、木曜日。
今年の私の運命を占う初めての黒ミサ。
さて、今宵の教祖様のご機嫌はいかに・・・。
その日はね。
遅かったんです。
法人契約してもらっている企業さんへの出張施術。
そこを出たのが、22時。
Yさん宅まで30分。
「今から伺いますので。」
事前に電話を入れておきます。
そう、必ずシャワーを浴びられますからね。
「はい、お待ちしています。」
おっと大事なことを言い忘れるところでした。
「あのー、今日は、夕食は頂きましたので、お気遣いなく。」
さすがに、この時間帯に胃腸の限界まで挑戦する気にはなれません。
もちろん、前日、確認の電話を入れた時にも、念押ししてますよ。
明日は、結構ですからって。
22時30分。
混沌の世界へ到着。
「こんばんは~、谷田です。」
「あら、先生、いらっしゃい。」
「本年もよろしくお願いします。」
「こちらこそ。」
挨拶もそこそこ。
頭を上げた私の視界の片隅。
食卓に見過ごせない危機を察知してしまいました。
「先生、今日は、もう夕食は召し上がられたんですね。」
「ええ、しっかり頂いてきましたので。」
「でも、こんな時間まで働いてはって、お疲れでしょう。」
「いえ、全然、大丈夫ですよ。」
「夕方、召し上がってたら、ちょうどお腹がすいてこられるだろうと思って。」
「・・・ご用意頂いてるんですか?」
「はい、お夜食にと思って。」
「や・し・ょ・く」
やられました。
そう、来ましたか。
夕食を食べても、夜にちょっと小腹が空いたとき。
ちょこっとつまむのが、夜食。
夜食なら、すでに夕食を摂ったことが免責事項にはなりません。
う~む、こんな高度な策略が用意されているとは。
まるで、法の抜け穴を駆使する悪徳弁護士ではないか。
「今日は、七草がゆですね。」
「そうでしたね。」
助かった。
まだ、おかゆなら。
「でも、今日はこれを召し上がってください。」
こ、これは・・・。
「イカ・・・イカリングですか?」
「そう、イカを揚げてみました。」
なぜ、イカなんだ。
七草がゆじゃなかったのか。
「七草がゆにしようかと思ったんですけどね。」
「はあ」
「そんなんじゃカロリーが足りないだろうと思って。」
「はあ」
「イカは疲労回復にいいみたいなんですよ。」
「はあ」
っていうか、食べ疲れしそうなんですけど。
しかもね。
多いんです。
そう、イカが。
大ぶりの鉢にうず高くイカリングが積み上げられています。
どうみても、50個以上はあります。
この時間帯に、これはないでしょう。
確かに、私はイカが好きです。
イカフライ定食を頼むこともあるでしょう。
しかし、その定食でも、せいぜいイカリングが5個ではないでしょうか?
「さあさ、先生、召し上がってください。」
「あのー、夜食ですから、ご飯は結構ですので。」
「あら、そうですか?まあ、仕方はないわね。」
ご不満そうなYさん。
しかし、これは、私の胃腸の安全保障において、譲れない一線。
「・・・では、頂きます。」
ん?
おや?
噛み切れないぞ。
身がパサパサ。
しかも、固い。
イカの持ち味である弾力が全くありません。
「それね、失敗作なんです。」
「・・・はは、ちょっと固いですね。」
「実は、それ昨日揚げたんですけどね。」
えっ、昨日!?
昨日の揚げ物ですか?
どうりで、見た目からベトッとしているはずです。
「お正月におせちを作ったでしょ。」
「はあ。」
「その時に、冷蔵庫も大掃除したんです。」
「はあ。」
「そしたら、冷凍庫の奥からいっぱい出てきたんです。」
「何が?」
「イカが。」
「・・・。」
つまり、石油と同じく掘り当ててしまったということですね。
「すっかり買ったことも忘れててね。」
「はあ。」
「で、また、買い足すでしょ。」
「はあ。」
「そしたら、いつの間にかイカだらけになってたんです。」
先日、奈良の桜井茶臼山古墳から発掘された大量の銅鏡。
卑弥呼の時代に製作されたことが、地層から測定されました。
Yさん宅の冷蔵庫。
同じようにその収納位置から、年代が測定されそうな気が。
一体、どれくらいのヴィンテージものなんでしょう。
「で、昨日、ちょうどかき揚げを作ってたんですね。」
「はあ。」
「だから、この際、イカも全部揚げてしまおうって。」
「・・・そうなるんですね?」
「そうなるんです。」
なんということだ。
このイカは、伏魔殿の奥深くで悠久の眠りに就いていた幻の一品だったのか。
大丈夫なのだろうか?
いや、冷凍してたから、大丈夫なんだろう。
しかし、それにも限度があるのでは。
身がパサパサしているは、そのせいではないのか?
「でもね、味見をしてみたら、やっぱり固いんです。」
「はあ」
「やっぱり剣先よりもアオリが良かったんですけどね。」
「はあ」
固いのは、品種よりも鮮度の問題だと思うんですが。
「私とお母さんだけじゃあ、食べきれないでしょ?」
「はあ」
「でも、明日は、先生がいらっしゃるわと思って。」
「はあ」
「ちょうど良かったんです。」
「・・・。」
「ちょうど良かった」
これは、聞き捨てならないお言葉。
果たして、誰にとって、「ちょうど」なんでしょう?
「処分」
そんな言葉が頭をよぎります。
しかし、それでは、イカくんにあまりにも申し訳ありません。
ここは、ありがたく頂くとしましょう。
ふた口目。
まるで、UFOキャッチャーのようにぎこちない動きで箸を伸ばします。
固い。
やはり固い。
「先生、レモンをしっかり絞ってくださいね。」
「はい、どうも。」
まるで、レモンを絞ったら、イカがやわらかくなるかと言わんばかりだ。
しかし・・・。
かけても、固い。
やはり固い。
さらに、全く減った気配がありません。
まるで、解体工場に積み上げられた古タイヤのように。
泰然と私の目の前に立ちはだかるのです。
「ほらね、やっぱり失敗作でしょ。」
「・・・いえ、おいしいですよ。」
「そうぉ?」
失敗作と言いながら、他のおかずを勧められる素振りが全くありません。
もちろん、お鉢の位置も私の真正面。
正中線の延長上に陣取られています。
そう、これが、メインディッシュなのです。
「じゃあ、先生。甘酢をかけてみましょう。」
自家製甘酢は、Yさん秘伝の味。
冥界の饗宴には、欠かせない一品。
「じゃあ、これをドボドボドボッと・・・。」
「ああ、そんなに・・・。」
食べる私の意向など、微塵も気にされることはありません。
その効果音のとおり、豪快に振りかけられてしまいました。
まさに、甘酢の床下浸水。
「さあ、先生、どうぞ。」
スッキリした表情のYさん。
まるで、甘酢をふりかけた分だけ、ストレスが発散されたかのように。
「・・・では、頂きます。」
自らを叱咤激励して、箸を伸ばします。
「!!」
こ、これは。
甘酢の味しかしないじゃないか。
「どう、先生?」
「はあ・・・甘酢がよく効いてますね。」
「どれどれ」
Yさんも、おもむろにお箸を伸ばされます。
そして、口に入れられた瞬間。
ウッと顔をしかめられ、ひと言。
「かけ過ぎね。」
そう、かけ過ぎですよ。
明らかに。
「じゃあ、先生。これをかけてみましょう。」
甘酢の前科など全く気にされることもなく、新たな提案をされるYさん。
そう言って、手にとられた見覚えのある一品。
「『食べる唐辛子』ですね。」
「そう、何でもあうんです。」
って、よっちゃんが言ってたんですよね。
そう、伝説ファンなら、ご存知ですね。
福井のよっちゃんからの贈り物。
『食べる唐辛子』
過去の伝説でも登場しましたね。
「あっ、先生。これ、お土産に持って帰ってくださいね。」
「いえいえ、そんなせっかくの贈り物なのに。」
「大丈夫。よっちゃんに電話して、また、たくさん送ってもらったんです。」
「・・・そうですか。」
くっ、よっちゃんめ。
見事な連携プレーではないか。
「じゃあ、これもドバドバドバッと。」
「ああ、そんなに!」
なぜ、「サラッ」とではなく、「ドバドバ」なんでしょう?
イカリングの山に赤い絨毯が敷き詰められます。
まるで、紅葉に色づいた晩秋の伊吹山のように。
「さあ、先生、召し上がってください。」
好奇心旺盛な瞳が、私を捉えて離しません。
「・・・では、頂きます。」
「!!!」
こ、この味は。
全くあってない。
南蛮漬けのような味を予想してましたが。
甘酢と唐辛子がそれぞれに自己主張しています。
調和するどころか、しっかりケンカしています。
何とも形容の仕様のない不思議な味。
「あら、これでもダメね。」
ご自分でも口にされたYさん。
しばらくクチャクチャされていたものの。
やはり噛みきれなかったらしく、ペッと手のひらに吐き出されて、ゴミ箱へ。
と言っても、イカリングから解放してくれるわけではありません。
あくまで、メインディッシュなのです。
せめてね、ゲソでもあればね。
私は、ゲソが好きなんです。
少しは、食感のアクセントになったことでしょう。
しかし、見事に胴体だけ。
しかも、Yさんの見事な味付けで、より難易度を増しています。
12個。
それが、私の限界でした。
自分なりによくやったと褒めてあげたいと思います。
「さすがに、夕食をしっかり頂いたもので・・・。」
「あら、そうですか・・・じゃあ、これぐらいで。」
と言って、お鉢にラップをかけられます。
はっ!
ラップ?
まさか来週まで保存しておかれないよな。
冬の冷麺の記憶が、まざまざと脳裏に甦ります。
いくら何でも、揚げ物ですからね。
でも、絶対ないと言い切れないところが、Yさんが伝説の人たる所以なのです。
あのイカリングは、一体、どうなるのだろう?
自らの身に降りかかってくるだけに、重大な懸案事項です。
そうして、施術を無事終えました。
「あら、先生。遅くなってしまいましたね。」
「いえ、大丈夫ですよ。いつも夜更かししてますから。」
もう日付が変わってしまいました。
さあ、早く帰って、お風呂に入ろう。
「ああ、先生。お土産をご用意してるんです。」
「えっ、そんな。お気遣いなく。」
「いえいえ、もうちゃんと用意してあるんですから。」
「はあ、そうですか。いつもすいません。」
食卓には、ビニル袋と紙袋が二つ用意されています。
「高知からいろいろ送ってきたんです。」
「そうですか。」
思わず緊張で身を固くしてしまいます。
「まず、これが、うちのいとこが作っているカマボコでね。」
そう、Yさんのいとこは、高知でかまぼこ工場を経営されています。
こだわりの製法で、生産量は少ないんです。
でも、テレビや雑誌で取り上げられるほど、地元では老舗の有名店。
「はらたいらさんも、お得意さんなんですよ。」
「へえー、あのはらたいらさんが。」
ビミョーですね(笑)
しばらくこだわりの製法について、熱弁を奮われます。
深夜にもかかわらず、新春ドラマ『かまぼこ一代記』が幕を開けました。
「はあ」
「ほお」
「そうですか」
「で、これが、カマスの一夜干しでね。」
「はあ」
「ほお」
「そうですか」
「で、これが、サバのみりん干しでね。」
「はあ」
「ほお」
「そうですか」
実は、連続ドラマ『南国土佐をあとにして』だったんです。
次から次へと、高知名産の珍しい海産物のオンパレード。
「これは、お母さんに調理してもらうとき、必ずとろ火で、ゆっくり焼いてもらってくださいね。」
「はあ」
こうして、大阪の夜は、しんしんと更けていくのです。
帰ったら・・・2時でした。
-完-
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