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しかし、全神経を集中しなければなりません。
「こ、これは・・・鯛ですか?」
「そう、鯛のアラ煮です。」
小鉢には、しっかりと煮込まれた鯛のお頭が。
「鯛はね。身よりもアラのほうがおいしいんです。」
「ほお、そうなんですか。」
「いちおう、身は私が頂きましたからね。」
「はあ。」
「このアラは、先生のために取っておいたんですよ。」
「・・・。」
追い込まれていく。
獲物を確実に仕留めるハンターの鋭い瞳。
「ほら、ウドを一緒に煮込んでおきましたからね。」
「へえ~、ウドですか。」
そう、Yさんは、ウドが大好物なのだ。
昨春は、大量に食べ過ぎられてね。
お肌がブツブツだらけになってました。
「さあ、先生。召し上がってください。」
入るのか?
まだ、大丈夫なのか、私の胃袋は?
きっとイカメシのように、ご飯粒が胃袋いっぱいに詰まっていることだろう。
いや~、かなり厳しいなあ。
しかし、50cm先からは、獲物を捉えて離さない猛禽類の瞳が。
まるで、LEDバックライトでも搭載しているかのように、煌々と輝いているではないか。
「・・・では、頂きます。」
アラってね。
ちょっと食べにくいでしょ。
どこから、お箸をつけようかなあって。
とりあえず、エラの裏あたりから。
「あら、先生。分かってるわね。」
「は?」
「そこは、頭でもおいしいところなのよ。」
「はあ、そうですか。」
うん、なるほど。
これは、おいしい。
「いやあ、ほんとおいしいですね。」
「でしょ?」
「濃厚なコクでありながら、さすがに鯛ですね。」
「ええ。」
「しつこくないのに、身はとろけるようで。」
「そうなのよ。」
「また、ウドがいいアクセントになってますね。」
「そう、ウドがあうのよ。」
ここがポイントです。
お料理番組にゲストで呼ばれたアイドルのようにね。
「きゃあ~、おいしい!」
だけでは済まされないのです。
何が、どうおいしいのか?
そのお料理ならではの特長を端的に表現。
しかも、Yさんが期待されているツボを敏感に察知。
これこそが、黒ミサから無事生還するための智恵。
伝説ライヴにお申込み頂いたみなさん。
特に、ご留意されたし。
「でもね、先生。」
「はい。」
「ほんとの通はね。」
「はい。」
「ほっぺを召し上がるものなのよ。」
「ええ、そうなんですか。」
「そうよ、ほっぺの身が一番おいしいんだから。」
「ほお、では、早速・・・。」
生き残る術、其の弐。
基本的に言われたとおりにすべし。
そう、ガンジーに倣い、「無抵抗主義」。
これが、一番ダメージを軽減できるのです。
下手に自分の意見を主張するものではありません。
燃え盛る炎に灯油をかけては、さらなる延焼を生みかねません。
「ほお、エラより身が引き締まって、やっぱり違いますねえ。」
「でしょ~。」
ご満悦だ。
教祖様は。
これで、追及の手も緩むのではなかろうか。
油断しかけたその刹那。
「あら、先生。まだ、身が残ってますよ。」
「えっ?」
「ほら、このほっぺたの内側の奥にぃ。」
「あっ、ほんとだ。すいません。」
土佐の漁師町で生まれ育ったYさん。
お魚には、厳しいんです。
「ほら、先生。まだ、その奥にも。」
「はあ」
矢継ぎ早に飛んで来るYさんの鋭い指示。
一刻も気を休める暇など、ありません。
ご自分の箸で、指し棒のように食べ残しを指摘されます。
「ほら、先生、そこ。」
「この裏にもまだ身があるじゃないですか。」
「お箸の先で、身を削げ落とすように。」
しかし、私の「シングルSP」での技術点。
予選突破ラインには、届かなかったようです。
ついに、シビレを切らしたYさん。
「ほら、先生。よく見ててくださいね。」
審査員直々の演技指導が始まりました。
「ここは、お箸をこんなかんじでね。」
「そこで、先をこう奥に突っ込んで。」
「力を入れ過ぎると、身が崩れますから。」
表現力豊かなフリーの演技。
E難度の匠の技を連発。
惜し気もなく、奥義を伝授して頂きました。
「さあ、先生。やってみてください。」
浅田真央ちゃん。
あなたは、バンクーバーで銀でしたね。
フリーの演技で、少し着地が乱れちゃいました。
日本国民全体の期待を一身に背負われ。
出来て、当たり前。
けど、弱冠19歳のあなた。
そんな重圧に立ち向かわれておられたのですね。
恥ずかしながら、37歳の私。
今、目の前の重圧に押し潰されそうであります。
「で、この目玉がコリコリして、おいしいのよ。」
「はあ、目玉ですか。」
「あら、先生、苦手?」
「ええ、いや、まあ。」
「じゃあ、私が頂きますね。」
「ええ、どうぞ。」
助かった。
「ここにお箸の先を突っ込んで・・・こうクリンとひっくり返してね。」
着氷に一糸の乱れもなく。
高さ、回転、キレとも申し分なし。
見事なトリプルアクセルが決まりました。
「この食感が何とも言えないのよねえ。」
「いや、さすがに食通ですね、Yさんは。」
そんなこんなで。
何とかお頭の「お清め」を終えることができました。
ふぅ~。
胃腸だけではありません。
精神的にもかなり堪えた鯛のアラ煮。
アドレナリン、出っ放し。
そろそろ、セロトニンに切り替えさせてもらいましょうか。
「はい、これで片面は終わりね。」
えっ?
片面?
はっ!
この立派な大ぶりのお頭。
正面で切断されているではないか。
目の前にあるのは、右半分。
ということは、まだ・・・。
「はい、先生。こっち側もきれいに召し上がってください。」
「・・・。」
作業は続きました。
神経を擦り減らすような重圧の中。
まるで、高松塚古墳の壁画の修復作業のように。
「ほら、先生。そこぉー!」
一介の新米学芸員に過ぎない私。
文部科学省から派遣された審議官の鋭い視線。
耐えた。
耐え抜いた。
これで、左右のお頭の修復作業は完了だ。
後は、審議官の認可を頂くのみ。
「あっ、そうそう。尾っぽもあったわね。」
作業続行。
審議官のご指示です。
逆らえません。
だって、中央官庁ですから。
「・・・ごちそうさまでした。」
「はい、今日もお粗末さまでした。」
箸を置いてよし。
ついに、審議官から認可を頂きました。
長かった。
ほんとに一日は24時間なのだろうか。
まるで3日間ぶっ続けで、検察の取調べを受けたかのようだ。
半ば虚脱状態で、拘置所を出ようとする私。
「あっ、そうそう、先生。」
「はい?」
そう、言いながら、大きめのタッパーを手にされます。
「いつも野菜を頂いてるお父さんにね。」
「はあ。」
「これを召し上がってもらってください。」
おもむろにフタを開けられるYさん。
「鯛の煮こごりです。」
はっ!
こ、これは、どういうことだ!?
この煮こごり。
しっかりと「身」の部分ではないか!
身の部分は、Yさんが食べてしまわれたのではなかったのか?
身よりもおいしいアラ。
私のためにわざわざ取っておいて頂いたと・・・。
しかし、Yさんは、満面の笑み。
煮こごりの味付について、ここぞとばかりに解説が始まります。
またもや、完敗だ。
でも、憎めないんですよねえ(笑)
結局、Yさんの意図されるがままに導かれ・・・ハッ!
こ、これこそ。
これこそ、そうだと言うのか。
「マイルド・コントロール」
自分の意図されるがままに相手を導かれながら。
それでいて、カドを立たせない。
まさしく、「マイルド」の真髄ではないか。
う~む、何て奥が深いんだ。
きっと父もマイルドの虜になることだろう。
「あっ、そうそう、先生。」
「はい?」
まだ、何か?
「実は、もうひとつ、お土産があるんです。」
このお土産の受領に際し、私の意思が考慮されることはありません。
たとえ、使用済み核燃料であろうと、持ち帰る義務が発生するのです。
それが、Y家の敷居を跨ぐ者に課せられた使命。
小学校の遠足でも、先生に言われましたね。
「来た時よりも美しく」
「ほら、先生。こっち、こっち。」
いつもの危険な消防法違反ゾーン。
もうおなじみですね。
「これ、これ、先生。この箱よ。」
さて、今日は何だろうなあ?
半ば諦観にも近いクリアな心境。
はい、頂きますよ、何だろうと。
「あれ、結構、軽いですね。」
はてさて、何だろう?
開封してみると、以下の2商品がエントリーされてました。
<エントリーNO.1>
「肌美和(きみわ)のウィッチクリーム」
馬油配合のスキンケアクリーム。
動物性だけに独特の香りとしっとり感があります。
Yさん曰く。
塗って30分くらいすると、お肌になじんでスベスベになるそうです。
これが、17本。
<エントリーNO.2>
RMK ソープバー試供品(10g)×50個
ネットで検索すると、製品版を発見。
レビューは、こちら。
が、頂いたものは、重さが10g。
多分、試供品なんでしょうね。
で、これは、Yさんも愛用されてます。
お風呂で?
洗顔で?
いえいえ、キッチンです。
水道の蛇口にね。
ぶら下げておられるんです。
そう、石鹸を入れるネットがあるでしょ?
あのミカンなんかが入ってるような赤い網。
あそこにね。
この小さい試供品を5個ぐらい入れておられます。
「いい泡が立つのよ~。香りも上品だし。」
と、Yさん。
でも、久しぶりに見たなあ。
水道の蛇口にかけられたネット入りの石鹸。
まさしく昭和レトロの哀愁を感じるなあ。
おばあちゃんの流し台には、必須アイテム。
さらに、蛇口に輪ゴムでも引っ掛けておくと、高得点がマークされます。
しかし、先日、大量の石鹸をみなさんに引き取って頂いたところ。
今回は、量も少ないし、場所もとらないし。
ただ、馬油は合わない人も結構おられるだろう。
そうだ、講座で配ろう。
脈診でチェックしたら、いいじゃないか。
ってことで、明日、14日(日)の大阪を皮切りに。
順次、講座へ持参させて頂きます。
早い者勝ちですからね。
欲しい方は、声をかけてくださいね。
来月になっても、まだ、残ってるかもしれませんが(笑)
講座に参加されなくてもね。
どうしても欲しいとおっしゃる方は、ご連絡ください。
<蛇口に石鹸をぶら下げる会事務局>
tanida@crocus.ocn.ne.jp
さあ、あなたも馬油配合クリ-ムで。
洗車ブラシにも負けないお肌を手に入れてください。
では、今宵はこのあたりで。
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